この資料
紛争類型別要件事実を柱に、R4〜R6予備試験口述再現の出題傾向を踏まえて整理
改訂にあたり、フォルダ内の司法研修所編「紛争類型別の要件事実 民事訴訟における攻撃防御の構造」(4訂)の該当章を実際に確認し、本文・表・チェックリストの誤りを修正した。特に、①保証人の承認は主債務の時効を更新しない(457条1項は主→保証の一方向)、②相殺の受働債権は期限の利益の放棄・喪失により現実に弁済期が到来していることを要する(最判平25.2.28)、③詐害行為取消訴訟では「受益者の善意」が抗弁であり請求原因に悪意を組み込むのは誤り、④弁護士職務基本規程の「品位」は6条(5条は信義誠実)、⑤賃貸人たる地位は不動産賃貸借の譲渡により当然に移転し、登記はこれを賃借人に対抗するための要件(民法605条の2第3項)、という5点は実害の大きい誤りだったため全面的に書き改めた。
追記(令和7年口述再現を反映):フォルダ内の「26y_kamokubetsu-a-bunseki01[1].pdf」(令和5〜7年口述再現、辰已法律研究所)を確認したところ、令和7年口述では、本資料に欠けていた「取得時効を原因とする所有権移転登記手続請求」(第2部O、長期・短期の取得時効の要件事実、他主占有権原・他主占有事情の抗弁、時効完成前後で対抗問題の扱いが異なる点)と、「危険負担(民法536条・567条)」(第2部Aに追加、売買契約では引渡し・履行の提供後の危険移転について536条の一般則より567条の特則が優先する点)が新たに出題されていたことが判明したため、これらを追加した。あわせて、代理人が締結した契約の合意主体の摘示、弁護士の誠実義務(根拠のない断定的な見通しの提示の禁止)についても補った。
本書の使い方:各類型について【訴訟物】→【請求原因事実】→【抗弁】→【再抗弁】→【再々抗弁】の順に「型」を暗記する。口述試験は主査がこの順番で誘導してくるため、常にこの順で思考を組み立てる練習をすること。暗記の際は条文・判例の文言そのものより、要件事実として何を主張すれば足りるか(主要事実)を正確に言えることを優先する。
第1部 総論:絶対に崩してはいけない基本構造
1. 要件事実論の基本用語
- 主要事実:権利の発生・変更・消滅という法律効果を直接基礎付ける事実。弁論主義第1原則の対象(当事者が主張しない限り判決の基礎にできない)。
- 間接事実:主要事実の存否を推認させる事実。証拠と同様に扱われ、自白の対象とならない(弁論主義の適用なし)。
- 補助事実:証拠の証明力に影響する事実(例:証人の利害関係)。
- 抗弁:請求原因事実と両立し、その法律効果を覆滅させる別個の権利根拠事実の主張。
- 否認:相手方の主張事実を争うこと。「理由付否認」では、両立しない別の事実(積極否認)を述べることが多い。
- 不知:争ったものと推定される(民訴法159条2項)。
- 顕著な事実:公知の事実・裁判所に顕著な事実は証明不要(民訴法179条)。
抗弁か否認かの判別基準=請求原因事実と論理的に両立するか。両立しなければ否認(例:売買契約の成立を争う=否認。いったん成立した契約が解除で消えた=抗弁)。
2. 図表の略号(司法研修所の慣用表記)
図表で攻撃防御の構造を書くときは、次の略号を用いるのが実務・口述双方の慣用である(紛争類型別要件事実・凡例)。
- Kg=請求原因(Kogen) E=抗弁(Einrede) R=再抗弁(Replik) D=再々抗弁(Duplik) T=再々々抗弁(Triplik)
口述で「再抗弁」「再々抗弁」という呼び方自体を事案に応じて正確に使い分けられるかは、主査が重視するポイントである(R6口述A氏で「再々抗弁」と「予備的抗弁」を混同し訂正された例がある)。
攻撃防御方法の基本構造は、次のように「右の箱が左の箱の効果を覆滅する」という連鎖として図式化できる(司法研修所の図表を簡略化したもの)。

3. 規範的要件(評価的要件)の主張構造
「過失」「正当な理由」「信頼関係の破壊」等の規範的要件は、それ自体は主要事実ではなく、評価根拠事実(規範該当性を基礎付ける具体的事実)を主張立証する。相手方は評価障害事実で争う。
- 口述で頻出の聞かれ方:「賃貸借契約の解除に『信頼関係の破壊』は要件事実として必要か」「背信性を基礎付ける評価根拠事実は何か」
- R5年口述(賃貸借解除の事例)では、賃料不払いの期間(1年2か月)が長いほど信頼関係破壊の評価根拠事実として強く扱われ、主査から「1年と1年2か月で何が違うのか」と評価の程度を問われている。期間・金額等の定量的事実は評価根拠事実として具体的に数字で押さえておく。
4. 訴訟物・請求の趣旨・請求原因の関係
- 訴訟物=審判の対象となる権利関係そのもの(実体法上の権利を単位とする・旧訴訟物理論=実務の立場)。
- 請求の趣旨=訴訟物を特定し、どのような判決を求めるかを示す申立て(給付・確認・形成)。
- 請求原因事実=訴訟物たる権利の発生を基礎付ける主要事実(=要件事実)。
口述の冒頭は必ず「訴訟物は何か」「請求の趣旨はどうなるか」から入る。物権的請求権か債権的請求権かを必ず意識して答えること(R5口述A氏:賃貸人・転借人への請求でそれぞれ訴訟物の法的性質が異なる点を問われた)。
5. 主張・証明責任の分配(法律要件分類説)
- 権利の発生を主張する者=権利根拠規定の要件事実について証明責任を負う。
- 権利の障害・消滅・阻止を主張する者=それぞれの規定の要件事実について証明責任を負う。
- 「疑わしきは証明責任を負う者の不利益に」=真偽不明の場合、証明責任を負う当事者が敗訴する。
- 注意:条文が「ただし書」の形をとっていても、立証責任の所在が自動的に被告(抗弁)側になるとは限らない。逆に、条文が本文に列挙していても、立法趣旨・解釈上、原告の請求原因とされることもある(例:詐害行為取消権における受益者の悪意/善意の扱いは、民法424条1項の文言どおり「ただし書=抗弁」であるというのが司法研修所の整理だが、特則である424条の2・424条の3では受益者の悪意が条文の本文の要件として請求原因に組み込まれる。条文構造だけで即断せず、各則ごとに原典で確認する癖をつけること。詳細は第2部N参照)。
6. 弁論主義・既判力の最小限(手続法との接合)
- 弁論主義第1原則:裁判所は、当事者が主張しない主要事実を判決の基礎にできない。
- 弁論主義第2原則(自白の拘束力):当事者間に争いのない主要事実(裁判上の自白)は、裁判所を拘束し、証明を要しない(民訴法179条)。
- 弁論主義第3原則:裁判所は、当事者間に争いのある事実について、当事者が申し出た証拠によらなければ事実認定の基礎とすることができない(職権証拠調べの原則禁止)。
- 処分権主義との違い:弁論主義は事実資料の提出、処分権主義は訴訟物・審判対象の設定(訴えの提起・取下げ、請求の範囲)に関する当事者主導の原則。混同しないこと。
- 既判力の客観的範囲:原則として主文に包含するもの(訴訟物についての判断)に限られる(民訴法114条1項)。理由中の判断には及ばない。
- 既判力の時的範囲:事実審の口頭弁論終結時を基準時とする。
- 相殺の既判力(民訴法114条2項):相殺のために主張した自働債権の存否について、対抗した額の範囲で既判力が生じる。これは相殺の抗弁に特有の例外であり、この既判力ゆえに、裁判所は他の抗弁(弁済・時効等)をすべて排斥した後でなければ相殺の抗弁を判断すべきでないとされる(他の抗弁が認められれば自働債権を消費せずに済み、被告により有利だから)。口述で「複数の抗弁がある場合の判断順序」「なぜ相殺は最後に判断するのか」と聞かれたら、この114条2項を根拠に答える。
第2部 紛争類型別・要件事実(本体)
A. 売買契約に基づく代金支払請求
【訴訟物】売買契約に基づく代金支払請求権 【請求原因事実】 ①売主と買主が、目的物・代金額を合意して売買契約を締結したこと(契約は諾成契約なので引渡し・登記は不要)。 ※「売買契約を締結した」の一言で足り、個別に目的物の特定・代金額の合意を要素として分解して主張するのが実務上の型。
【典型抗弁】
- 同時履行の抗弁(民法533条):Y(買主)が、Xの代金支払請求に対して、「目的物の引渡しを受けるまで代金の支払を拒絶する」との権利主張をするもの。これが認められると、裁判所は請求棄却ではなく引換給付判決をする。
- 再抗弁:①先履行の合意(Yが先に履行すべき旨の合意)、又は②Xによる目的物引渡しの現実の提供(提供をすれば同時履行の抗弁権は消滅する。もっとも一回限りの提供で永久に消滅するわけではなく、その後再び履行しなければ抗弁権は復活し得る)。
- 弁済、相殺、消滅時効の援用 等(後記「横断的抗弁」参照)。
【暗記ポイント】
- 同時履行の抗弁は「抗弁」と分類されるが、構造的には権利抗弁(反対債務の存在+権利主張が必要。単に存在するだけでは裁判所は職権で斟酌できない)。
- 売買契約は要物契約ではなく諾成契約→代金支払・目的物引渡しは「効果」であって成立要件ではない。
- 法定解除の要件事実の基本型(催告解除):①債務不履行の事実、②催告、③催告後相当期間の経過、④解除の意思表示(民法541条本文)。改正後は債務者の帰責事由は解除の要件ではない。ただし、不履行が債権者(解除を主張する側)の責めに帰すべき事由による場合は解除できない(民法543条)という点が抗弁として機能する。
- 無催告解除は、催告をしても無意味な場合等(民法542条列挙事由)に限られる。
- 手付解除(民法557条1項):買主は手付放棄、売主は手付倍返しにより契約を解除できる。要件事実は①手付交付の合意、②手付交付、③解除の意思表示(買主側は加えて手付返還請求権放棄の意思表示)。再抗弁は「解除権留保排除の合意」又は「相手方の履行の着手」(557条1項ただし書)。
- 代理人が締結した契約の合意主体:代理人Aが本人Xのために売買契約を締結した場合、「①の合意をした」等を摘示する際の主語(合意主体)は代理人Aである(「X・Y間で合意をした」ではなく「A・Y間で合意をし、Aはその際Xのためにすることを示した」等と構成する)。本人Xを主語にしてしまうのは口述での典型ミス(R7口述C氏で、手付金交付の合意等の主体を本人としてしまい「合意主体はそれじゃないよね」と訂正された)。
【危険負担の抗弁(民法536条・567条)】
- 一般的な危険負担(536条):双務契約において、一方の債務(目的物引渡債務)の履行が、当事者双方の責めに帰することができない事由によって不能となった場合、債権者(買主)は反対給付(代金支払)の履行を拒絶できる(536条1項)。
- 抗弁:①目的物引渡し債務が履行不能であること、②代金支払を拒絶するとの権利主張 - 再抗弁:履行不能が債権者(買主)の責めに帰すべき事由によるものであること(536条2項)
- 売買の特則(567条、引渡し・履行の提供後の危険移転):目的物の引渡しがあった後、又は売主が契約内容に適合する目的物の引渡しにつき履行の提供をしたにもかかわらず買主がその受領を拒み若しくは受けることができない場合において、その引渡し後又は提供後に、当事者双方の責めに帰することができない事由によって目的物が滅失・損傷したときは、買主は代金の支払を拒むことができない(567条1項・2項)。
- 抗弁:目的物が双方の責めに帰することができない事由によって滅失したこと+代金支払拒絶の権利主張 - 再抗弁:売主が、滅失前に目的物の引渡しにつき履行の提供をしたこと(567条2項) - 口述での注意:目的物が未引渡しのまま滅失した事案で安易に536条2項だけを答えると、「本件は売買契約だから特則的な規定はないか」と誘導される(R7口述C氏)。引渡し又は履行の提供が先行している売買契約では、一般法である536条より特則である567条が優先して検討されるべきことを押さえておく。

B. 売買契約に基づく目的物引渡請求(動産・不動産)
【訴訟物】売買契約に基づく目的物引渡請求権 【請求原因事実】売買契約締結の事実のみ(代金支払いは抗弁たる同時履行の抗弁で初めて問題となる。目的物が契約締結当時売主の所有であったことや、引渡期限の合意・到来も請求原因としては不要)。
【不動産の場合の追加論点】
- 移転登記請求を併せて求める場合、訴訟物は所有権に基づく妨害排除請求権としての移転登記請求権か売買契約に基づく移転登記請求権かで構成が分かれる(実務は後者=債権的請求権構成が原則)。
- R6口述A氏の事例(抹消登記請求+承諾請求)のように、現在の登記名義人以外の第三者(抵当権者等)に対しては物権的請求権構成(所有権に基づく妨害排除請求権)を使う。この使い分けは頻出。
C. 所有権に基づく返還請求権(動産引渡・土地明渡・建物収去土地明渡)
C-1. 動産引渡請求
【訴訟物】所有権に基づく返還請求権としての動産引渡請求権 【請求原因事実】 ①原告が目的物を所有していること ②被告が目的物を占有していること
「もと所有」の正確な位置づけ:原告が「現在」目的物を所有していることを直接基礎付けられない場合、過去のある時点(例えば売買による前主からの承継取得の起点)での所有を主張し、そこから自己への承継取得の経過(例:A→X間の売買契約締結)を連ねて現在の所有を基礎付けるのが実務の型である。この「もと所有+承継取得の事実」は原告(請求原因)側が主張する事実であり、「抗弁」ではない。これに対し、被告が「その後、原告は所有権を失った」と争う場合(例えば被告や第三者が原告から目的物を取得した事実)は、被告側の所有権喪失の抗弁として独立に主張されなければならない。R4口述A氏で「もと所有は請求原因事実で出ているから、抗弁事実としては不要」と確認されたのはこの趣旨である(=もと所有は請求原因の一部であって、被告が重ねて主張する必要がないという意味)。
【典型抗弁】
- 占有権原の抗弁:被告が目的物を占有する正当な権原(賃借権・質権・留置権等)を基礎付ける事実。
- 質権に基づく占有権原の抗弁の要件事実:被担保債権の発生原因事実+質権設定契約(合意)+目的物の引渡し。 - 質権の留置的効力により、被担保債権が弁済されるまで占有を継続できる=抗弁として機能する。質権の消滅時期=被担保債権の弁済等による消滅時。 - 再抗弁:被担保債権の弁済(質権の消滅)。
- 所有権喪失の抗弁:被告又は第三者が原告から(又はその前主から)目的物を適法に取得したこと(売買・代物弁済・即時取得等)。代物弁済は諾成契約(民法482条)であるため、現実の給付までは要件事実とならない点に注意。
- 即時取得(民法192条)の抗弁:①取引行為(売買契約等の締結)、②それに基づく引渡し、を主張立証すれば足り、平穏・公然・善意は民法186条1項により推定され、無過失も188条の権利適法推定から事実上推定されるため、主張立証不要(暫定真実)。
- 再抗弁:占有取得時に前主の無権利について悪意であったこと(又は過失があったことの評価根拠事実)。
【代理権濫用の再抗弁(所有権喪失の抗弁に対して)】
- 被告の所有権喪失の抗弁が「原告から代理人を介して(代理人が締結した売買契約等により)第三者が取得した」という構成の場合に限り、原告は代理権濫用(民法107条)の再抗弁を主張できる:代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理行為をし、相手方がその目的を知り又は知ることができたとき、無権代理とみなす。濫用の意図を有していた時点=代理行為(契約締結)時であることに注意(R6口述A氏で問われた)。
- これは「占有権原の抗弁(質権)」に対する弁済の再抗弁とは別のルート(被告の抗弁が所有権喪失の抗弁か、占有権原の抗弁かで、再抗弁の中身が全く異なる)なので、答える際は「どの抗弁に対する再抗弁か」を一文で特定してから内容を述べること。
C-1の攻撃防御の連鎖は、抗弁の種類によって再抗弁のルートが枝分かれする点が重要である。

【口述での実証ポイント】
- 弁済の立証方法として、①振込・出金の記録(物証)、②借用証書の返還(間接事実=弁済時に債権者から債務者に返還するのが実務上の取扱い)、③当事者の陳述書、④証人尋問、を自分の言葉で説明できるようにする(R4口述A氏の再現に明示あり)。
C-2. 建物収去土地明渡請求
【訴訟物】所有権(又は賃貸借契約終了)に基づく土地明渡請求権(建物収去は強制執行のために主文に明示する付随措置であり、独立の訴訟物ではない点に注意=R5口述A氏で問われた)。 【請求原因事実(所有権構成)】 ①原告が土地を所有していること ②被告が土地上に建物を所有して土地を占有していること(建物所有=土地占有の間接事実)
【典型抗弁】占有権原の抗弁=賃借権・地上権等 【再抗弁の典型パターン(連鎖賃貸借・転貸借)】
- 賃借人が土地上に建物を建て、第三者に建物を賃貸(転貸)している場合:
- 転借人の土地占有の権原=「建物賃借権」ではなく、土地占有権原として構成する必要がある(R5口述A氏:「乙建物を退去して甲土地を明け渡せ」との構成で、Y2の占有権原は土地についての占有権限か建物についての占有権限かを区別して検討する誘導あり)。 - 賃貸借の対抗要件:建物所有目的の土地賃貸借は、土地上の建物の所有権登記(借地借家法10条)により第三者に対抗できる。未登記でも引渡しがあれば足りる場合がある(建物賃貸借・借地借家法31条)。
D. 賃貸借契約に基づく賃料請求・目的物返還請求
D-1. 賃料請求
【訴訟物】賃貸借契約に基づく賃料支払請求権 【請求原因事実】①賃貸借契約の締結、②賃料の約定、③当該賃料支払期(又は経過)の到来 【抗弁】弁済、相殺、賃借目的物の一部滅失による賃料減額(611条)等
D-2. 目的物返還請求(賃貸借終了に基づく)
【訴訟物】賃貸借契約の終了に基づく目的物返還請求権(所有権に基づく返還請求権とは別個の債権的請求権として構成できる点がポイント)。 【請求原因事実】①賃貸借契約の締結、②引渡し、③賃貸借契約の終了原因事実(期間満了・解約申入れ・解除等) ※この構成では「原告の所有」の主張は不要(賃貸人であればよい)。
D-3. 賃貸人たる地位の移転(不動産の譲渡と賃貸借)
- 対抗要件を備えた不動産賃貸借(借地借家法10条・31条、又は民法605条の登記)がされている場合において、その不動産が譲渡されたときは、賃貸人たる地位は、原則として当然に譲受人に移転する(民法605条の2第1項)。
- ただし、譲受人は、所有権移転登記を備えなければ、賃貸人たる地位の移転を賃借人に対抗することができない(同条3項)。つまり、登記は賃貸人たる地位の「移転要件」ではなく、「賃借人に対する対抗要件」である。
- R4口述C氏で「賃貸目的物の所有権が移転したら、常に賃貸人の地位は移転するか」と問われたのは、移転すること自体は原則どおりだが、その移転を賃借人に対抗するには登記が必要という点を確認させる趣旨であり、「移転しない」という答えは不正確。正しくは「移転するが、登記がなければ賃借人にその移転を対抗できない(=賃料請求等ができない)」と答える。 - なお、賃借人が対抗要件を備えていない場合には、譲渡人・譲受人間の合意のみで賃貸人たる地位を譲受人に移転させることもできる(民法605条の3)。

【用法遵守義務違反と賃貸人たる地位の移転の関係】
- 賃借人の用法遵守義務は、特約がなくても、契約又は目的物の性質により定まる賃貸借契約の内容そのものから生じる(民法616条が594条1項を準用)。したがって「用法遵守義務違反の主張に特約の立証が必要」というのは誤りであり、特約は不要。
- R4口述C氏で主査が「用途義務違反はあるが、それはAY間ですよね。Xはどうやって主張しますか」と問うた真意は、特約の要否ではなく、用法遵守義務違反という債務不履行が、もとの賃貸人Aと賃借人Yとの間の契約関係から生じたものである以上、新所有者Xがこれを解除原因として主張するには、Xが賃貸人たる地位を適法に承継したこと(=賃貸人たる地位の移転、前記D-3)を経由しなければならない、という点にある。「特約の要否」と「誰がその違反を主張できるか」は別の論点なので、混同しないこと。
【賃貸借契約の解除(信頼関係破壊の法理)】
- 一般論としての債務不履行解除の要件事実:①債務不履行の事実、②催告、③催告後相当期間の経過、④解除の意思表示。
- 賃貸借は継続的契約であり、信頼関係破壊の法理により、軽微な債務不履行では解除が制限される一方、背信性が強い場合には無催告解除も認められる(賃料不払い等が著しい場合)。
- 無催告解除特約があっても、一般に背信性を基礎づける事情(事前の催告なしに解除してもやむを得ない事情)が必要というのが判例の立場。
- 解除の意思表示の効力発生時期=到達主義(民法97条1項)。催告が先に相手方に到達し、相当期間経過後に解除の意思表示が到達して初めて解除の効果が生じる(R4口述C氏で日付計算が問われた)。
【期間満了・更新拒絶による終了(解除に寄らないルート)】
- 借地(建物所有目的の土地賃貃)の場合、存続期間の満了により終了させるには、賃貸人が期間満了の1年前から6か月前までの間に更新拒絶の通知をし、かつ、その通知に正当事由があることを要する(借地借家法6条)。借家についても同様の規律がある(同法28条)。
- 「正当事由」も規範的要件であり、賃貸人・賃借人双方の土地(建物)使用の必要性、賃貸借に関する従前の経過、利用状況、立退料の提供等の評価根拠事実・評価障害事実を主張立証する。
- 本資料はこれまで「解除」類型に厚く「期間満了」類型が薄かったので、口述で「終了原因は何か」と聞かれたら、解除以外に「期間満了+更新拒絶+正当事由」のルートも必ず選択肢に挙げること。
【解除と第三者】
- 解除前の第三者:解除の遡及効を制限する規定(民法545条1項ただし書)により保護される第三者=登記等の対抗要件を備えた第三者。
- 抵当権者は「解除前の第三者」として保護されるために、抵当権設定登記の具備(対抗要件具備)が必要。
E. 消費貸借契約に基づく貸金返還請求
【訴訟物】消費貸借契約に基づく貸金返還請求権 【請求原因事実】 ①金銭の返還約束(消費貸借の合意) ②金銭の交付 ③弁済期の合意+その弁済期(確定期限)の到来 ※③を欠くと請求原因事実として不十分(弁済期の定めがなければ、貸主は相当期間を定めた催告+その期間経過が必要=民法591条1項)。「弁済期の主張を忘れる」のは口述での典型ミス(R6口述B氏でまさにこの失念が起きている)。
【書面でする消費貸借(諾成的消費貸借、民法587条の2)】
- 要物契約である原則型(587条)と異なり、書面で合意すれば金銭の交付前でも消費貸借は成立する(587条の2第1項)。借主は、金銭の交付を受けるまでは契約を解除できる(同条2項)。電磁的記録によってされたときは書面によるものとみなされる(同条4項)。
- 口述で「金銭を交付していないのに貸金返還請求できるか」と聞かれたときの受け皿として押さえておく。
【利息・遅延損害金】
- 利息は特約がなければ請求できない(消費貸借は原則無利息=民法589条1項)。利息請求権の発生には、①元本債権の発生原因事実に加えて②利息支払の合意、③一定期間の経過という独立の要件事実が必要であり、元本債権と完全に同一の訴訟物に当然包含されるわけではない(商人間の消費貸借では商法513条1項により合意がなくても法定利息を請求できる)。
- 遅延損害金の利率:法定利率(年3%・変動制、民法404条)より約定利率の方が高い場合は約定利率が優先(419条1項ただし書)。起算日・利率の変動時点を事案の数字で正確に追う練習をしておく(R5口述B氏で利率・起算日の勘違いが連発した場面が再現されている=数字に弱いと即座に突っ込まれる)。
- 保証債務の場合、元本・利息・遅延損害金は、特約のない限り主たる債務に関するものを包含するものであり(447条1項)、1個の保証契約に基づく保証債務履行請求権として訴訟物は1個にまとまる(詳細はF参照)。もっとも、約定利息そのものは理論上元本債権とは別個の発生原因(利息支払の合意)を要する請求権であるから、「利息だけを分離して論じよ」と言われた場合に「1個に包含されるので論じる必要がない」と答えるのは誤りである。
【抗弁】弁済、相殺、消滅時効の援用
F. 保証債務履行請求
【訴訟物】保証契約(連帯保証契約)に基づく保証債務履行請求権 【請求原因事実】 ①主たる債務発生原因事実(消費貸借契約締結+金銭交付+弁済期の合意・到来等) ②保証契約の締結(保証する旨の合意) ③保証契約の意思表示が書面(又は電磁的記録)によるものであること(民法446条2項・3項。保証契約は要式契約) ※「連帯」の特約は、原則として請求原因事実として主張立証する必要はない。連帯保証と単純保証の違いが表面化するのは、単純保証人が主張し得る催告・検索の抗弁(452条・453条)に対する再抗弁としてであり(連帯の特約があれば催告・検索の抗弁自体が封じられる)、訴訟物・請求原因のレベルでは保証契約の締結で足りる。

【保証債務の付従性】
- 保証人は、主たる債務者が主張することができる抗弁をもって債権者に対抗することができる(民法457条2項)。
- 主たる債務について消滅時効が完成したときは、保証人も145条の「当事者」として時効を援用できる(付従性により、少なくとも保証人との関係で主たる債務が消滅し、保証債務も消滅する)。
【時効の更新は一方向(最重要の訂正)】
- 民法457条1項は、「主たる債務者」について生じた時効の完成猶予・更新の効力が「保証人」に及ぶ、という一方向の規定である。逆に、保証人について生じた事由(保証債務の承認・一部弁済等)は、原則として主たる債務の時効には影響しない(相対効)。 したがって、「保証人による保証債務の承認が、付従性により主たる債務の時効を更新する」という理解は誤り。457条1項を根拠にこの逆方向の効果を導くことはできない。
- 条文番号は457条1項を正確に。「450条あたり」等の不正確な記憶はR5口述B氏で現に訂正されている。
【混同・相続が絡む応用問題(主債務者死亡→保証人が相続した場合)】
- 主たる債務者Aが死亡し、連帯保証人Yが唯一の相続人としてAの地位(主たる債務者としての地位)を包括承継した場合、Yは「保証人としての地位」と「(相続した)主たる債務者としての地位」を併せ持つに至る。
- ここで「混同(民法520条)」が問題になるわけではない点に注意。混同は、同一の債権について債権者と債務者の地位が同一人に帰属した場合に当該債権が消滅する制度であり、本件では債権者Xと債務者(Y)が同一人に帰属するわけではないから、520条の要件(債権及び債務が同一人に帰属)を欠き、そもそも適用場面ではない(口述でも「混同」という発想自体が誘導から外れた回答になりやすいので注意)。
- 実際に問われるのは、Yが保証債務の履行として弁済等をした場合に、それが(Yが相続により取得した)主たる債務者としての地位に基づく「承認」(主たる債務の時効更新事由、152条)と評価できるかという点である。判例(最判平成25年9月13日)の考え方を踏まえると、債権者Xが、弁済者Yが主たる債務者の地位を相続により承継したことを認識していた等の事情があれば、Yの履行は主たる債務の承認と評価されて主たる債務の時効が更新されるが、Xがその承継の事実を知らなければ、Yの履行は単なる保証債務の履行としての認識にとどまり、主たる債務の承認とは評価されない、との整理になる。
【事業用融資の個人保証の特則】
- 事業のために負担する貸金等債務を主たる債務とする保証契約を個人が締結する場合には、原則として、契約締結前1か月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じない(民法465条の6)。経営者等の例外(465条の9)もあるが、口述では「個人保証には公正証書による意思確認が必要な場合がある」という大枠を押さえておけば足りる。
- また、主たる債務に期限の利益喪失約款がある場合、主たる債務者が期限の利益を喪失したときは、債権者は、保証人(個人)に対し、その利益の喪失を知った時から2か月以内にその旨を通知しなければ、期限の利益喪失時から通知が現実に到達するまでに生じた遅延損害金に係る保証債務の履行を請求できない(458条の3)。
【抗弁・再抗弁の典型連鎖(保証類型の頻出パターン)】
- 請求原因:主債務+保証契約+書面性
- 抗弁:主債務の消滅時効の援用(付従性により保証債務も消滅)
- 再抗弁:主債務の時効の更新(主たる債務者による承認、152条。前記「混同・相続」の応用はこの場面で生じる)
- (別ルート)抗弁:保証債務それ自体の消滅時効の援用
- 再抗弁:保証人自身による保証債務の承認(152条の通常の更新。ただし、これは保証債務自体の時効を更新するにとどまり、457条1項とは無関係。457条1項が働くのはあくまで主債務側の事由が保証人に及ぶ場面のみ)
2つのルートが矢印の向きを取り違えやすい箇所なので、図で区別して覚える。

G. 登記請求(所有権移転登記・抹消登記・承諾請求)、抵当権関係
G-1. 対第三者(抵当権者等)に対する抹消登記請求・承諾請求
【訴訟物(登記名義人に対し)】所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記抹消登記請求権 【訴訟物(抵当権者に対し)】所有権に基づく妨害排除請求権としての抵当権設定登記抹消登記請求権 【訴訟物(後順位の利害関係人に対する承諾請求)】所有権に基づく妨害排除請求権としての登記(抹消)の承諾請求権(登記上の利害関係を有する第三者の承諾又はこれに代わる裁判が必要な場合=不動産登記法68条という手続法上の規定を実体法的に根拠付けるもの)

【請求原因事実】 ①原告の所有(又は、もと所有+対抗要件具備の経過) ②被告名義の登記(抵当権設定登記等)の存在
【典型抗弁】所有権喪失の抗弁=被告(又はその前主)が原告から目的物を適法に取得したこと(売買契約締結の事実等)
【再抗弁】解除の再抗弁=原告が売買契約を解除したこと(催告+相当期間経過+解除の意思表示、又は無催告解除特約の充足)
【再々抗弁】解除前の第三者の抗弁=抵当権者等が解除の意思表示より前に対抗要件(抵当権設定登記)を具備していたこと(民法545条1項ただし書の「第三者」として保護)。「再々抗弁=予備的抗弁ではない」(遡及効を制限し、いったん覆滅された抗弁の法的効果を復活させるもの)という位置づけを正確に説明できるようにする(R6口述A氏の誤答・訂正ポイント)。

【代理関連:代理人による売買と代理権濫用】
- 本人の代理人が自己・第三者の利益を図る目的で代理行為をし、相手方がその目的を知り又は知り得た場合は、無権代理とみなす(民法107条)→所有権喪失の抗弁に対する再抗弁として機能。
- 濫用の意図の有無は代理行為(契約締結)時を基準に判断する。
G-2. 抵当権に関する要件事実の基礎
- 抵当権設定登記の請求原因事実:①被担保債権の発生原因事実、②抵当権設定契約の締結
- 抵当権設定契約は諾成契約であり要物性なし。質権と異なり引渡しは不要(抵当権は非占有担保)。
- 抵当権設定登記は、抵当権の成立要件(効力発生要件)ではなく、当事者間では合意のみで成立した抵当権を第三者に対抗するための、民法177条の対抗要件である(権利保護要件という独立のカテゴリーで説明するのではなく、177条の対抗要件として説明する)。不動産登記法68条は、その抹消等の手続上、登記上利害関係を有する第三者の承諾を要求する手続規定であることと区別して理解する。
H. 債権譲渡(譲受債権請求訴訟)
【訴訟物】譲渡を受けた原債権(例:消費貸借契約に基づく貸金返還請求権)そのもの(債権譲渡によって同一性を保ったまま譲受人に移転する) 【請求原因事実】 ①原債権の発生原因事実(AY間の消費貸借契約締結等) ②債権譲渡契約の締結(A→X) ※対抗要件(通知・承諾)は請求原因事実ではなく、債務者対抗要件は抗弁事実として位置づけられる点が最重要(通説・実務の整理)。

【抗弁①:債務者対抗要件の抗弁】
- 譲渡人(A)から債務者(Y)に対する通知又は債務者(Y)の承諾がなされるまで、譲受人(X)は債務者に債権取得を対抗できない(民法467条1項)という権利主張を内容とする抗弁。
- 要件事実:通知又は承諾がないことの権利主張。対抗要件具備までは「Xを債権者と認めない」という形の抗弁。
- 再抗弁:これに対し、Xは、譲渡人Aから債務者Yへの通知、又はYの承諾があったことを再抗弁として主張立証する。467条1項の通知・承諾は、確定日付のある証書による必要はない(単なる通知・承諾で足りる)点が、後記の第三者対抗要件との違いである。
【抗弁②:第三者対抗要件具備による債権喪失の抗弁(二重譲渡)】
- 要件事実:①譲渡人が第三者(B)にも同一債権を譲渡したこと、②その譲渡についても確定日付のある証書による通知又は承諾がされたこと(民法467条2項)
- 位置づけ:第三者対抗要件具備による債権喪失の抗弁を構成する事実は、債務者対抗要件の抗弁を構成する事実を包含するが、法律構成としては別個の主張である。両者は適用条文が異なり(467条1項=債務者対抗要件、2項=第三者対抗要件)、1項の通知・承諾は確定日付を要しないのに対し、2項は確定日付のある証書によることを要し、複数譲受人間の優劣(劣後譲受人からの請求を排斥できるか)という別の法律効果を基礎付けるものだからである(事実の包含関係=主張の同一性ではない)。
- 再抗弁:Xが、自己への譲渡についても確定日付のある証書による通知・承諾を、Bへの通知・承諾より先に備えたこと(先後関係=劣後譲受人からの対抗要件具備の抗弁に対しては、優先する譲受人が自己の対抗要件具備の先後を主張立証する)。
【再抗弁:通謀虚偽表示の再抗弁】
- 要件事実:A・Bが、真実は債権譲渡する意思がないのに、譲渡する意思があるように仮装することを合意したこと(民法94条1項)
- Y(債務者)がこれを主張する場合、民法94条2項の「第三者」保護との関係を問われる。94条2項の「第三者」=虚偽表示の当事者及びその包括承継人以外の者であって、虚偽表示に基づいて成立した法律関係を基礎として、新たに利害関係を有するに至った者という定義を正確に言えるようにする。
- 未弁済の債務者は民法94条2項の「第三者」に該当しない(新たな利害関係を有するに至ったとはいえない)という結論まで押さえる(R6口述B氏)。
債権譲渡類型は抗弁が2系統(債務者対抗要件/第三者対抗要件)に分かれ、再抗弁の内容もそれぞれ異なる点を図で整理しておく。

【弁護士倫理(債権譲渡類型で頻出)】
- 仮装の債権譲渡について、存在しない譲渡を内容証明郵便で通知することを助言する行為=違法行為の助長(弁護士職務基本規程14条)に該当し得る。
- 虚偽の事実を前提に裁判上の主張をさせること自体が品位を欠く行為、あるいは偽証のそそのかし(同規程75条)に該当し得る点も関連して問われる。
I. 請負契約に基づく報酬請求・損害賠償請求(総論)
【訴訟物】請負契約に基づく報酬請求権 【請求原因事実】①仕事の完成を目的とする請負契約の締結、②仕事の完成(原則として報酬は仕事の目的物の引渡しと同時履行=民法633条) 【抗弁】同時履行の抗弁、契約不適合(担保責任)による報酬減額請求・損害賠償請求・解除(民法559条・562条〜564条の準用) ※契約不適合責任の要件事実:①契約内容と異なる(種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しない)目的物を引き渡したこと、②追完の催告(原則)、③相当期間の経過。注文者が履行の追完を請求するには、まず契約内容との不適合を基礎付ける具体的事実を主張する必要がある(規範的要件に準じた扱い)。
J. 不法行為に基づく損害賠償請求(総論)
【訴訟物】不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条) 【請求原因事実】 ①故意又は過失 ②権利又は法律上保護される利益の侵害 ③損害の発生及びその数額 ④①と③との間の因果関係 【過失の規範的要件としての主張】
- 「過失」は規範的要件であり、具体的な注意義務違反の内容(評価根拠事実)を主張する必要がある(例:speedの出しすぎ、前方不注視等の具体的事実)。
【抗弁】過失相殺(民法722条2項)、正当防衛・緊急避難(720条)、消滅時効の援用 【消滅時効の期間(現行法)】
- 一般の不法行為:損害及び加害者を知った時から3年(主観的起算点)、不法行為の時から20年(客観的起算点)。
- 人の生命又は身体を害する不法行為:知った時から5年、不法行為の時から20年。
- いずれの20年も、改正法下では「除斥期間」ではなく「消滅時効」である(民法724条2号、724条の2)。消滅時効であるから、援用が必要であり、完成猶予・更新の対象にもなる。改正前の「除斥期間」という理解のまま覚えていると誤りになるので要注意。
K. 代理・表見代理・無権代理
【代理の要件事実(売買契約を例に)】 ①代理人と相手方との間での契約締結(顕名を含む)、②本人が代理人に代理権を授与したこと 【表見代理(基本代理権+信頼)のパターン】
- 権限外の行為の表見代理(民法110条):①基本代理権の授与、②代理人が権限外の行為をしたこと、③相手方が代理人に当該行為の代理権があると信じ、かつそう信じたことに正当な理由があること
【代理権濫用(民法107条)】
- 代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で権限内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り又は知ることができたときは、その行為は代理権を有しない者がした行為とみなす(無権代理とみなす)。
- 濫用の意図を有していた時点=当該代理行為(契約締結)の時点で判断する。
L. 相殺
【相殺の要件事実(抗弁として主張する場合)】 ①自働債権の発生原因事実、②受働債権(請求債権)について相殺の意思表示をしたこと(民法506条1項)
【相殺適状の内実(最重要の訂正)】
- 民法505条1項本文は、相殺適状の要件として、対立する債権が同種の目的を有すること、及び双方の債務が弁済期にあることを要求している。
- 自働債権の発生原因事実の主張立証があれば、原則として自働債権の弁済期到来も現れる(売買型契約を発生原因とする場合は①の事実だけで足りるが、貸借型契約を発生原因とする場合は、弁済期の到来も別途主張立証を要することがある。これは弁済期の合意が契約の成立要件であるとする見解=いわゆる貸借型理論の採否による)。
- 受働債権については、「期限の利益を放棄できる」というだけでは相殺適状にならない。期限の利益の放棄又は喪失等により、その弁済期が現実に到来していることを要する(最判平成25年2月28日民集67巻2号343頁)。「受働債権は期限の利益を放棄できるため弁済期未到来でもよい」という理解は、この判例が否定した整理であり誤り。
- 自働債権に同時履行の抗弁権が付着している場合、判例・通説によれば抗弁権の存在効果として相殺が許されない。したがって、自働債権の発生原因事実の主張自体からその債権に抗弁権が付着していることが明らかな場合は、抗弁権の発生障害事由又は消滅原因となる事実を併せて主張しなければ、相殺の抗弁は主張自体失当となる。
【相殺禁止・相殺の意思表示に関する再抗弁】
- 性質上相殺を許さない債務であること(民法505条1項ただし書。例:不法行為による損害賠償請求権の一部=509条各号)は、一般には相殺の抗弁に対する再抗弁と考えられるが、受働債権の内容からこの点が条文上明白な場合(例えば509条本文各号に明示されている場合)は、相殺の抗弁自体が主張自体失当となることもある。
- 相殺の意思表示には条件又は期限を付すことができず(民法506条1項後段)、条件又は期限を付した相殺の意思表示は無効となる(その意思表示全体が無効になるのであり、条件・期限の部分だけが無効となるわけではない)。したがって、相殺の意思表示に条件又は期限が付されていたことは、相殺の抗弁に対する再抗弁となる。
【相殺の判断順序と既判力】
- 相殺の抗弁は、その判断に既判力を生じる(民訴法114条2項)ため、他の抗弁が認められるよりもY(抗弁提出者)にとって不利益となる。そのため、防御方法として複数の抗弁が主張されている場合、原則として、裁判所は他の抗弁をすべて排斥した後に相殺の抗弁の判断を行うべきである(第1部6参照)。

M. 消滅時効(援用・更新・完成猶予・承認)
【消滅時効の抗弁の要件事実】 ①権利を行使することができる時から(又は権利行使可能であることを知った時から)一定期間が経過したこと、②時効の援用(意思表示・形成権的効果) 【時効期間】債権は原則として、権利を行使できることを知った時から5年、権利を行使できる時から10年のいずれか早い方(民法166条1項)。 【再抗弁の典型】
- 承認による更新(民法152条):債務者(又はその代理人等、処分につき行為能力の制限を受けていない者)が権利の存在を認識している旨を表示したこと。
- 協議を行う旨の合意による完成猶予(151条)
- 催告による完成猶予(150条)+その後6か月以内の再度の措置
- 保証類型との接続:主債務者の承認は457条1項により保証債務にも更新効が及ぶが、逆(保証人の承認が主債務に及ぶこと)はない点は前記F参照。
N. 詐害行為取消権・債権者代位権(概要)
N-1. 詐害行為取消権(民法424条)【受益者の善意は「抗弁」に位置づけが変更】
【訴訟物】詐害行為取消請求権 【請求原因事実】(基本型・424条1項) ①被保全債権の発生原因事実 ②被保全債権が詐害行為より前の原因に基づいて生じたこと(424条3項) ③財産権を目的とする行為(詐害行為)がされたこと ④③により債権者を害すること(無資力等) ⑤債務者の詐害意思(「債権者を害することを知ってした」こと。無資力=責任財産減少の認識があれば足り、債権者を害する積極的な意欲までは不要と解されている)
【抗弁】受益者の善意:受益者が詐害行為の時において、債権者を害することを知らなかったこと(民法424条1項ただし書)。これは請求原因事実(受益者の悪意)としてではなく、被告(受益者)側が主張立証責任を負う「抗弁」であるという点が、司法研修所「紛争類型別の要件事実」第9章で明示されている整理であり、本資料の前版の誤りを訂正する最重要ポイントの一つ。 【その他の抗弁】
- 期間制限の抗弁:債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から2年を経過したこと、又は行為の時から10年を経過したこと(民法426条。期間の制限の性質は除斥期間と解するのが一般的)。
- 資力の回復の抗弁:口頭弁論終結時までに債務者の資力が回復したこと。
- 被保全債権の発生障害事由等の抗弁:契約の取消し・解除による債権の消滅、弁済等による債権の消滅、被保全債権の譲渡による債権の喪失等。

【特則では受益者の悪意が請求原因になる点に注意】
- 相当の対価を得てした財産の処分行為の詐害行為取消し(424条の2)や、既存の債務についての担保の供与・債務の消滅行為(偏頗行為、424条の3)等の特則では、条文の構造が異なり、受益者の悪意(詐害意思の通謀等)が条文上の積極要件として明記されているため、請求原因事実として原告(取消債権者)が主張立証する。基本型(424条1項)と特則とで立証責任の所在が逆になる点を、条文ごとに区別して覚えること。
N-2. 債権者代位権(民法423条)
要件事実:①被保全債権の発生原因事実、②被保全債権の履行期が到来していること(原則)、③債務者が無資力であること(又は、登記請求権等の場合は無資力要件不要=転用型)、④債務者が自らその権利を行使しないこと(判例上は要件とされないことが多いが、実務上の整理として押さえておく)
O. 取得時効を原因とする所有権移転登記手続請求(R7口述で新出)
【訴訟物】所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求権(物権的登記請求権)。 ※取得時効による所有権取得は原始取得であるが、登記実務上は保存登記ではなく移転登記による。また、登記原因の日付は時効完成日ではなく時効の起算日(占有開始日)である点に注意(R7口述A氏で「相続は取得原因になるか」と問われ、相続ではなく時効取得を原因とする構成であることを確認された)。
【請求原因事実】 ①Xがその不動産を所有していること(=下記の時効取得の要件事実によって基礎付けられる) ②Y名義の所有権移転登記が存在すること
①の内容(長期取得時効、民法162条1項): ア ある時点で占有していたこと イ アの時から20年経過した時点で占有していたこと ウ 援用権者が相手方に対し時効援用の意思表示をしたこと
- 162条1項の要件は、所有の意思(自主占有)をもって・平穏・公然に・他人の物を・20年間占有すること、の4要素だが、所有の意思・平穏・公然は民法186条1項により主張立証不要(暫定真実)。反対事実(他主占有、強暴、隠秘)は相手方が抗弁として主張立証する。
- 取得時効の対象物は自己の所有物であってもよい(他人の物に限らない、判例)。
- 占有の継続は186条2項により、前後両時点における占有の事実があれば、その間継続したものと推定されるから、占有開始時と20年経過時の2時点の占有のみを主張立証すれば足りる。
- 初日不算入の原則(民法140条)により起算は占有開始日の翌日からだが、時効の効果が遡るのは占有開始日である。時効援用者は起算点を任意に選択できない(最判昭35.7.27)。
①の内容(短期取得時効、民法162条2項): ア ある時点で占有していたこと イ アの時から10年経過した時点で占有していたこと ウ 占有開始時に善意であることについて無過失であること(無過失の評価根拠事実) エ 援用権者が相手方に対し時効援用の意思表示をしたこと
- 長期と異なり、占有開始時の無過失は推定されない(最判昭46.11.11)。無過失は規範的要件であり、評価根拠事実の主張立証が必要。
- 善意(自己に所有権があると信じたこと)には半信半疑を含む。無過失の判定時期は占有開始時であり、その後悪意に変わっても時効取得の成否に影響しない。
【時効の援用の法的性質】 不確定効果説(停止条件説)に立つ判例の立場によれば、時効の援用は権利の得喪を確定させる実体法上の要件であるから、実体法上の意思表示として理解すべきことになる(口述で「時効の援用とは何か」と定義を求められたらこの説明で答える)。
【典型抗弁】
- 他主占有権原/他主占有事情の抗弁:占有者には所有の意思が推定されるため、取得時効の成立を争う相手方は、「所有の意思がないこと」を、①その性質上所有の意思のないものとされる占有取得の権原(他主占有権原、例:賃貸借)、又は②外形的客観的にみて占有者が所有権を排斥して占有する意思を有していなかったと解される具体的事実(他主占有事情)のいずれかにより主張立証する(最判昭58.3.24)。「所有の意思」の有無は占有者の内心ではなく、占有取得の原因(権原)の客観的性質により外形的客観的に判定される。
- 占有継続の不存在:186条2項の推定を覆す事実(その間のある時点での不占有)。
- 対抗要件の抗弁(時効完成「後」の第三者):時効完成後に目的物を譲り受けた第三者は、登記を備えなければ時効取得者に対抗できないが、逆に登記を備えていれば取得時効を主張する者に対抗できる。
- 【要注意】時効完成「前」に目的物を譲り受けた第三者との関係では、177条の対抗問題は生じない(時効取得者とその譲受人は当事者類似の関係に立つため)。したがって、時効完成前にされた第三者名義の登記は、時効取得者に対抗する根拠とならず、抗弁として機能しない(R7口述B氏で「短期の場合、時効完成前の登記は時効取得者に対抗することができないので、抗弁とはならない」と確認された=「抗弁として主張できない」という結論まで押さえておくこと)。
【相続と占有の承継】 相続人は、被相続人の占有を承継して占有を主張することも、自己の占有のみを新たな占有として主張することもできる(民法187条1項)。被相続人の占有から起算する場合は、①被相続人の占有開始、②被相続人死亡の事実、③相続人の地位(相続)、④相続人の占有終期(又は20年・10年経過時点の占有)を漏れなく主張する必要がある。間接占有(占有代理人を介した占有。例えば目的物である建物を第三者に賃貸している場合)であっても占有は継続しているものとして扱われる点に注意(R7口述B氏で「賃貸していてもAの占有は継続している」ことが確認された。目的物を人に貸しているから占有を手放した、という誤答に注意)。

第3部 横断的に頻出する抗弁・再抗弁の「型」一覧
| 抗弁・再抗弁 | 要件事実の骨子 | 口述での注意点 |
|---|---|---|
| 同時履行の抗弁(533条) | 反対債務の存在+「反対給付の履行まで自己の債務の履行を拒む」との権利主張 | 権利抗弁。認容されると請求棄却ではなく引換給付判決。再抗弁は先履行の合意、又は現実の提供 |
| 占有権原の抗弁 | 占有を基礎付ける権利(賃借権・質権等)の発生原因事実 | 「どの物についての権原か」(土地か建物か)を取り違えない |
| 所有権喪失の抗弁 | 原告又はその前主から被告(前主)が取得した事実 | もと所有の構成とセットで出題されやすい |
| 弁済 | 債務の本旨に従った給付の事実 | 立証方法(領収書・通帳・陳述書・証人)を説明できるように |
| 相殺 | 自働債権の発生+受働債権の現実の弁済期到来+意思表示 | 受働債権は「放棄できる」だけでは足りず現実到来が必要(最判平25.2.28)。判断は他の抗弁の後(114条2項) |
| 消滅時効の援用 | 時効期間の経過+援用の意思表示 | 起算点(主観的起算点・客観的起算点)を正確に |
| 対抗要件の抗弁(177・178・467条等) | 対抗要件未具備の権利主張 | 「不存在」ではなく「対抗要件具備までは認めない」という権利主張の構造 |
| 解除(催告解除) | 債務不履行+催告+相当期間経過+解除の意思表示 | 到達主義(97条1項)。債権者の帰責事由があれば解除不可(543条) |
| 解除(無催告) | 催告をしても無意味な程度の背信性を基礎付ける事実 | 信頼関係破壊の評価根拠事実を具体的に主張 |
| 解除前の第三者 | 解除の意思表示前の対抗要件具備 | 再々抗弁として位置づけ、遡及効の制限という理由付けを言えるように |
| 通謀虚偽表示・94条2項第三者 | 仮装の合意+新たな利害関係人該当性 | 「第三者」の定義(当事者・包括承継人を除く)を正確に暗記 |
| 代理権濫用(107条) | 自己・第三者の利益を図る目的+相手方の悪意又は有過失 | 判断基準時=代理行為時。どの抗弁への再抗弁かを先に特定 |
| 受益者の善意(詐害行為取消、424条1項ただし書) | 詐害行為時に債権者を害することを知らなかったこと | 抗弁(受益者側の主張立証責任)。特則(424条の2・3)では逆に請求原因 |
| 保証人の承認 | - | 主債務の時効は更新しない(457条1項は主→保証の一方向のみ) |
第4部 手続法・証拠・弁護士倫理(口述で必ず付随して聞かれる事項)
1. 訴状・管轄・送達の最小セット
- 訴状の必要的記載事項:当事者及び法定代理人、請求の趣旨及び請求を理由づける事実(民訴法133条2項)。
- 事物管轄:訴訟の目的の価額(訴額)が140万円以下は簡易裁判所、それを超えるものは地方裁判所(裁判所法33条1項1号)。不動産に関する訴訟は訴額にかかわらず地方裁判所にも提起できる(同条1項1号かっこ書・民訴法に基づく実務運用)。
- 土地管轄:普通裁判籍=被告の住所地(民訴法4条)。特別裁判籍=義務履行地(財産権上の訴え、同法5条1号)、不動産所在地(同条12号)等。
- 送達:裁判所書記官が職権で行う(民訴法98条)。送達の効力発生は到達主義が原則。被告の住所等が不明な場合は公示送達(民訴法110条以下)。
2. 書証
- 二段の推定:①印影が本人の印章によるものであれば、本人の意思に基づく押印と事実上推定される(一段目)、②その結果、民訴法228条4項により文書全体の成立の真正が推定される(二段目)。
- 私文書の成立の真正は「本人又はその代理人の署名又は押印があるとき」に推定される(民訴法228条4項)。
3. 証拠収集・証拠方法
- 物証(契約書・領収書・通帳の写し等)と人証(当事者尋問・証人尋問)の違いを説明できるようにする。
- 弁済の立証手段として「借用証書の返還」が間接事実として機能する理由=弁済時に債権者が債務者に返還するのが実務上の慣行であるため。
4. 民事保全・執行の基礎(簡単な要件事実)
- 仮差押えの要件:①被保全権利(金銭債権)の疎明、②保全の必要性の疎明(民事保全法20条)
- 動産執行・債権執行の対象選択、二重差押え・利益相反(差押債権者と返還請求権者の利益相反=弁護士職務基本規程28条3号との関係で出題あり=R4口述A氏)
5. 弁護士倫理(頻出条文は必ず条文番号ごと暗記)
弁護士職務基本規程・第1章「基本倫理」は第1条〜第8条で構成される。第5条=信義誠実(真実を尊重し、信義に従い誠実かつ公正に職務を行う)、第6条=名誉と信用(名誉を重んじ信用を保つとともに、廉潔を持し、品位の保持・向上に努める)であり、「品位」の条文は6条である(5条と取り違えない)。
| 場面 | 根拠条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 信義誠実 | 職務基本規程5条 | 真実の尊重、信義誠実かつ公正な職務遂行 |
| 品位の保持 | 職務基本規程6条 | 名誉・信用の保持、廉潔、品位の向上 |
| 利益相反(既に依頼を受けた事件の相手方からの依頼等) | 職務基本規程27条1号・2号 | 同意による解除の規定はなく、該当すれば原則として受任自体ができない類型 |
| 利益相反(依頼者間の利益相反) | 職務基本規程28条3号・4号 | 原則不可。ただし各依頼者が同意した場合はこの限りでない(3号・4号に限り同意による例外あり) |
| 守秘義務 | 職務基本規程23条(弁護士法23条) | 依頼者から聞いた秘密を目的外に利用しない |
| 偽証のそそのかし | 職務基本規程75条 | 虚偽の証言・供述を依頼者や第三者に求めることの禁止 |
| 違法行為の助長 | 職務基本規程14条 | 違法な行為を助ける・勧めることの禁止 |
| 代理人の相手方本人への直接交渉 | 職務基本規程52条 | 相手方に代理人がいる場合は本人へ直接連絡しない |
| 依頼者の違法な要望への対応 | 職務基本規程14条等 | 名誉毀損的内容の通知・ばらまき等の依頼は断る |
| 事件の見通しについて根拠のない断定的説明をすること | 職務基本規程5条(信義誠実) | 「(調査や説明もせず)絶対に勝訴できる」等の確定的な見通しの提示は、依頼者への説明義務・誠実義務に違反する(R7口述A氏) |
| 秘密情報を含む可能性のある資料の返却の可否 | 職務基本規程23条・弁護士法23条 | 相手方から違法性を指摘された資料を安易に返却すると、証拠隠滅への加担と評価され得るため慎重に対応すべき(R7口述C氏) |
利益相反の整理(訂正):28条3号(依頼者間の利益相反)は、争いが「顕在化」する前であれば受任できるが、顕在化した場合には辞任義務が生じ得るという段階的な処理が可能であり、かつ各依頼者の同意があれば受任できる(28条ただし書)。これに対し、27条1号・2号(相手方の協議を受けて賛助し又は依頼を承諾した事件等)には、このような同意による解除規定がない。両者は号も性質も異なるので、「利益相反はすべて顕在化の前後と同意で処理できる」と一括りにしないこと。
国選弁護人が事件と無関係な民事の相談を受けた場合:「国選だから私的な民事代理はできない/できる」という形式的な結論を条文(刑訴法36条=国選弁護人の選任に関する規定にすぎない)から直接導くことはできない。実際に受任できるかどうかは、①事件本人との利益相反の有無、②報酬の受領方法、③国選弁護人として職務上知り得た秘密の利用に当たらないか、等を個別に検討して判断すべき事柄であり、「可能」「不可能」という結論を丸暗記するのは危険。
6. 口述特有の受け答えの型(過去問の「感想」欄から読み取れる実務的コツ)
- 主査は誤りを訂正する機会を必ず与えてくれる。沈黙せず、「訂正します」「撤回します」と明言して言い直す姿勢が高く評価される。
- 「訴訟物」「請求の趣旨」「請求原因事実」「抗弁」「再抗弁」という用語そのものを正確に使い分ける(「抗弁」と言うべき場面で「再抗弁」と言い間違えると即座に聞き返される=R5口述A・B氏双方で実例あり)。
- 規範的要件(信頼関係破壊・濫用目的等)は、結論だけでなく評価根拠事実を具体的な数字・固有名詞で述べる。
- パネル(事案の図)に記載された日付・金額を正確に読み取り、誘導があったら即座にパネルに立ち返る(暗記した一般論に流されて事案の具体的数字を見落とすミスが頻発している)。
第5部 R4〜R7予備試験口述試験(民事)出題実績マトリクス(本資料フォルダの再現記録より)
| 年度 | 主なテーマ | 中心となる要件事実 | 関連する倫理論点 |
|---|---|---|---|
| R4(A氏) | 所有権に基づく動産引渡請求 | 占有権原の抗弁(質権・留置的効力)、弁済の再抗弁 | 利益相反(28条3号)、差押えとの利益相反 |
| R4(B氏) | 同上(指輪の事例・別パネル) | もと所有の構成、占有権原の抗弁(質権) | 差押え依頼と利益相反 |
| R4(C氏) | 建物収去土地明渡(賃貸借終了) | 占有権原の抗弁、賃貸人たる地位の移転(605条の2)、用途義務違反による解除、到達主義 | 偽証のそそのかし(75条) |
| R5(A氏) | 建物収去土地明渡(転貸借) | 占有権原の抗弁の積み上げ構造、無催告解除特約、信頼関係破壊の評価 | 違法な通知要求への対応(職務基本規程14条) |
| R5(B氏) | 保証債務履行請求 | 付従性、消滅時効の援用、主債務者による承認(457条1項)、相続による地位併存 | 共同被告間の利益相反(受任の可否) |
| R6(A氏) | 抹消登記請求・承諾請求 | 所有権喪失の抗弁、解除の再抗弁、解除前の第三者(再々抗弁)、代理権濫用(107条) | 利益相反・守秘義務 |
| R6(B氏) | 譲受債権請求 | 債務者対抗要件の抗弁・再抗弁、第三者対抗要件具備による債権喪失の抗弁、通謀虚偽表示の再抗弁、94条2項第三者 | 違法行為の助長(14条)、偽証のそそのかし(75条) |
| R7(A氏・B氏) | 時効取得を原因とする所有権移転登記手続請求 | 長期・短期取得時効の要件事実、186条1項・2項の推定、他主占有権原・他主占有事情の抗弁、評価根拠事実(無過失)、時効完成前後での対抗問題の違い、占有の承継・間接占有 | 根拠のない断定的な見通しの提示の禁止(5条)、説明義務 |
| R7(C氏) | 動産の売買契約に基づく代金支払請求(危険負担) | 代理人による契約締結(合意主体の摘示)、危険負担の抗弁(536条・567条の適用関係)、履行の提供の再抗弁、手付解除の抗弁、履行の着手の再抗弁 | 秘密保持義務(23条)、証拠隠滅への加担の回避 |
出題の全体傾向:
- 民事はほぼ毎年「所有権に基づく物権的請求権」か「賃貸借・保証等の債権的請求権」のいずれかの基本型+抗弁の連鎖を骨格とし、1〜2段階の再抗弁・再々抗弁まで掘り下げられる。
- 規範的要件(信頼関係破壊、代理権濫用の目的、通謀虚偽表示)の評価根拠事実を具体的に説明させる設問が必ず混じる。
- 対抗要件(177条・178条・借地借家法10条・31条・467条・605条の2等)の理解を問う設問が頻出。「対抗要件具備=請求原因事実ではなく抗弁として機能する」という整理を各類型で使い回せるようにする。
- 終盤に必ず弁護士倫理(利益相反・守秘義務・偽証そそのかし・違法行為の助長)が1〜2問出題される。
- R7では、過年度に頻出していた賃貸借・保証・物権的請求権から離れ、取得時効(第2部O)と危険負担(第2部A)という、それまで出題のなかった類型が出題された。合格者の感想でも「代理や賃貸借の周辺を重点的にやっていたら予想外の出題だった」との声があり、特定の類型に的を絞らず、民法総則(時効)・債権総論(危険負担・弁済提供)を含めた全範囲の要件事実を横断的に押さえておく必要があることを示している。
第6部 直前暗記チェックリスト(訂正版)
本資料は、フォルダ内の「r4-r6yobi_koujutsu.pdf」(R4〜R6年度口述再現)、「26y_kamokubetsu-a-bunseki01[1].pdf」(R5〜R7年度口述再現)、「303ruikeibetu-honbun.pdf」(司法研修所編・紛争類型別の要件事実 4訂)、「youkenjijitu-R703-honbun.pdf」「kihantekiyouken-R703-honbun.pdf」(要件事実・規範的要件)等の内容及び各種判例・条文を実際に確認したうえで独自に整理したオリジナルの学習ノートです。本改訂では特に、保証人の承認の効力の方向(457条1項)、相殺適状における受働債権の弁済期(最判平25.2.28)、詐害行為取消訴訟における受益者の善意の位置づけ(紛争類型別の要件事実・第9章)、弁護士職務基本規程の品位規定(6条)、賃貸人たる地位の移転と対抗要件(605条の2)について、原典・判例を確認のうえ訂正しました。暗記の土台として使い、詳細な論証・条文根拠は各原典(紛争類型別の要件事実、要件事実マニュアル等)で必ず確認してください。